水道水でそのまま海水を作っている人、実は知らないうちに水槽を汚染しているかもしれない。
「カルキ抜きすれば大丈夫じゃないの?」と思うかもしれないが、残念ながらそれだけでは全然足りない。水道水に含まれる成分は塩素だけじゃなく、リン酸塩・ケイ酸塩・重金属・クロラミンなど、サンゴや海水魚にとってじわじわと致命的になりうる物質が溶け込んでいる。
この記事では、RO水(逆浸透膜水)が海水水槽に必要な理由を科学的な根拠とともに解説し、実際のROフィルターの選び方から日常的な管理方法まで、丸ごと紹介する。これを読めば「なぜプロのアクアリストはほぼ全員RO水を使っているのか」が理解できる。
水道水で海水を作ると何が起きるか
水道水に溶けている”見えない脅威”
水道水は人間が飲むために処理されているが、サンゴや海水魚にとっては別の話だ。日本の水道水には以下のような成分が含まれている。
- 塩素・クロラミン:バクテリアや魚のエラにダメージを与える
- リン酸塩(PO₄):コケ爆発の最大要因。0.1ppm以上で茶ゴケ・シアノバクテリアが急増
- ケイ酸塩(SiO₂):茶ゴケ(珪藻)の栄養源。特に立ち上げ初期に爆発しやすい
- 硝酸塩(NO₃):初めから10〜20ppm程度含まれている地域もある
- 重金属(銅・鉛など):微量でもサンゴのポリプを傷める。特に銅はLPSサンゴに致命的
地域によって水質は異なるが、東京都の水道水のTDS(総溶解固形物)は50〜150ppm程度。これをそのまま人工海水に使うと、不純物ごと塩水を作っていることになる。
カルキ抜きだけでは解決しない
ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)やコントロソルブでカルキ抜きをしても、除去されるのは塩素のみ。クロラミン(塩素+アンモニアの化合物)は通常のカルキ抜きでは分解しにくく、残留しやすい。しかもリン酸塩やケイ酸塩はまったく取り除けない。
実際に水道水で立ち上げた60cm水槽では、3週間目から茶ゴケが爆発し、1ヶ月後にはガラス面が毎週コケで覆われる状態になることが珍しくない。海水水槽のコケ対策でも解説しているが、コケ問題の根本は「水源」にあることが多い。
TDSとは何か
TDS(Total Dissolved Solids)=総溶解固形物は、水に溶け込んでいる物質の総量をppmで示す指標だ。RO水の目標値は0〜5ppm。水道水がTDS 80ppmなら、その80ppm分の不純物をすべて取り除いたものがRO水に相当する。
TDSメーターは安いもので1,000〜2,000円から買えるので、必ず一本持っておくべきだ。
RO水とは何か:逆浸透膜の仕組み
逆浸透膜(RO膜)がやっていること
ROはReverse Osmosis(逆浸透)の略で、圧力をかけた水を半透膜に通すことで不純物を取り除く技術だ。膜の孔径は0.0001ミクロン。細菌(0.2〜5ミクロン)やウイルス(0.01〜0.1ミクロン)はもちろん、溶解したイオン(リン酸塩・ケイ酸塩・重金属)まで95〜99%以上除去できる。
仕組みはシンプルで、水道圧(2〜4kgf/cm²)を使って水をRO膜に押し込み、純水を1ラインで通し、不純物を含んだ排水を別ラインで流す。水道につなぐだけで動作し、電気も使わない。
RO単体とRO/DIの違い
| タイプ | TDS | 価格帯 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| RO単体 | 5〜20ppm | 5,000〜15,000円 | 海水魚メイン、予算重視 |
| RO/DI | 0〜2ppm | 15,000〜40,000円 | サンゴ水槽、ミドリイシ |
DI(脱イオン樹脂)はRO膜の後段に追加するユニットで、RO膜で取りきれなかった残留イオンをほぼ完全に除去する。サンゴ水槽、特にミドリイシやSPSを育てるならRO/DI一択だ。LPSやソフトコーラルならRO単体でも問題ない場合が多い。
サンゴ水槽でRO水が必須な理由
リン酸塩0.03ppm以下を維持するために
SPS(枝状・薄板状サンゴ)の推奨リン酸塩濃度は0.03〜0.08ppm以下。水道水を使うだけでリン酸塩が入り続け、プロテインスキマーだけでは追いつかなくなる。プロテインスキマーのおすすめでも触れているが、スキマーは有機物を除去するものであり、無機の溶存リン酸塩は取れない。
毎週10%水替えをしても、RO水でなければ水替えのたびに新鮮なリン酸塩を投入し続けているのと同じだ。
足し水の重要性
蒸発した水を補充する「足し水」では、塩分は蒸発しないが不純物は残る。水道水で足し水をすると、換水で薄めながらも不純物だけが少しずつ濃縮されていく。リン酸塩やケイ酸塩がじわじわ上がり続ける原因の多くが、実はここにある。足し水は必ずRO水(またはRO/DI水)を使うことが基本中の基本だ。
サンゴポリプへの直接的影響
重金属(特に銅)はサンゴの共生藻(褐虫藻)に直接ダメージを与える。褐虫藻が抜けると「白化」が起き、回復しないまま死に至る。水道水の銅濃度は日本の基準で1.0mg/L以下だが、古いマンションや配管では溶出量が多い場合もある。RO膜は銅イオンを98%以上除去するため、リスクをほぼゼロにできる。
海水水槽の立ち上げ手順でも解説しているが、立ち上げの最初からRO水を使うことで、後々の水質トラブルを大幅に減らせる。
ROフィルターの選び方とおすすめ製品
ROユニットの基本構成
一般的なRO/DIフィルターは3〜5段階のフィルターで構成されている。
- セジメントフィルター(5ミクロン):砂・錆・粒子状物質を除去
- カーボンブロックフィルター(前段):塩素・クロラミンを除去(RO膜を保護)
- RO膜:溶解イオン・重金属・細菌を95〜99%除去
- カーボンフィルター(後段):残留有機物を仕上げ除去
- DIカートリッジ(混床脱イオン樹脂):TDSを0〜2ppmに仕上げる
おすすめ製品3選
① BRS 4-Stage RO/DI(バルクリーフサプライ)
北米のリーフタンクアクアリストで圧倒的シェアを誇るブランド。1日あたり75〜150ガロン(280〜570L)の処理能力があり、DIカートリッジの消耗もわかりやすい。国内では個人輸入かヤフオクで入手するケースが多い。RO膜の品質が安定していて、TDS 0〜2ppmを安定して出せる。
② Spectrapure MAXCAP RO/DI
高圧ポンプ付きモデルもあり、水道圧が低い物件(2kgf/cm²以下)でも性能を発揮できる。価格は$150〜$300程度。メンブレン品質が高く、ROの廃水比率も通常の1:4〜1:3から改善されている。
③ Aquatic Life RO Buddie(4段階)
入門機として人気。Amazon.co.jpでも入手しやすく、価格は15,000〜25,000円前後。1日処理量は約75L程度なので60〜90cm水槽の週1回水替えには十分対応できる。DIカートリッジが標準装備なのも嬉しいポイント。
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フィルターカートリッジの交換頻度
| フィルター | 交換目安 |
|---|---|
| セジメント | 6〜12ヶ月 |
| カーボンブロック | 6〜12ヶ月(塩素除去能力が落ちるとRO膜が劣化) |
| RO膜 | 2〜3年(TDSが急上昇したらサイン) |
| DIカートリッジ | TDSが5ppmを超えたら(使用量次第で3ヶ月〜1年) |
RO水の作り方と日常管理
作り方の手順
- ROユニットを水道の蛇口または給水管に接続する
- 最初の15〜30分は「フラッシング」として廃水として流す(膜内のほこりや保存液を除去)
- TDSメーターで出てきた水を計測し、0〜5ppm以下であることを確認
- 人工海水の素を計量し、RO水に少しずつ溶かして比重1.025〜1.026に調整
- 温度と比重が合ったら水槽に投入
足し水の場合はRO水そのまま(塩を入れない)を使う。蒸発した水分を補うだけなので、塩分濃度を変えてしまわないためだ。
TDS値の目標と管理
- RO水(そのまま):TDS 0〜5ppm(理想は0〜2ppm)
- RO水(DI通過後):TDS 0〜2ppm(SPSには必須)
- 完成した人工海水:TDS 35,000〜40,000ppm程度(塩分が溶けているため)
週1回の水替えの前にTDSメーターで計測する習慣をつけると、RO膜やDIカートリッジの劣化を早期に発見できる。
節水のコツ:廃水を有効活用
ROフィルターは純水1Lを作るのに3〜5Lの廃水が出る。この廃水はTDSが高いだけで普通の水なので、植物への水やりや洗車に使うと節水になる。RO水の「コスト」は廃水込みで考えておこう。
こんなアクアリストにRO水が特に効果的
ケース1:立ち上げ直後にコケが爆発した初心者
60cm水槽を立ち上げて2週間、ガラス面が茶ゴケで真っ茶色になってしまったAさん。スクレーパーで掃除しても翌週には元通り。実は水道水をそのまま使っており、TDS 90ppm・リン酸塩0.3ppmの水で立ち上げていたことが原因だった。ROフィルターを導入してRO水に切り替えたところ、3回の水替えを経てコケの勢いが明らかに落ちた。海水水槽のコケ対策と組み合わせることで、さらに効果が高まる。
ケース2:サンゴが白化し続ける中級者
LPSサンゴ(ハナガタサンゴ・バブルコーラル)が次々と白化するBさん。水温・比重・硝酸塩はすべて正常値だったが、原因がわからず困っていた。調べてみると古いマンションの配管から銅が溶出しており、水道水の銅濃度が0.3mg/Lに達していた。RO/DIフィルター導入後、新たに追加したサンゴは白化せずに定着した。
ケース3:ミドリイシに挑戦したいSPSアクアリスト
90cm水槽でSPS(ミドリイシ・コモンサンゴ)に挑戦しようとしているCさん。SPSはリン酸塩0.03ppm以下・ケイ酸塩ほぼゼロが推奨。水道水を使う限り、この数値を維持するのは現実的に不可能だ。BRS 4-Stage RO/DIを導入し、毎週15%をRO/DI水で換水するようにしたところ、3ヶ月後にミドリイシが安定して成長するようになった。
ケース4:仕事が忙しくて頻繁に水替えできない人
週1回の水替えが難しく、2〜3週に1回になりがちなDさん。水道水を使っていると不純物の蓄積が早まるが、RO水なら水替えの間隔が空いても「新たな不純物の投入」は発生しない。足し水もRO水で自動化(オートトップオフシステムと組み合わせ)することで、管理の手間を大幅に減らせた。
ケース5:地方に住んでいて水質が不安定
地方の一部地域では、季節によって水道水のTDSや塩素濃度が大きく変動する。梅雨時期に水道水のTDSが急上昇し、コケが爆発することを繰り返していたEさん。ROフィルターを使うことで、水源の水質変動に関係なく常にTDS 0〜2ppmの安定した水を作れるようになった。
よくある失敗・注意点
失敗1:TDSの確認をせずに使い続ける
ROフィルターを設置しただけで安心してTDSを計測しない人が多い。RO膜は水道圧が低すぎる(1.5kgf/cm²以下)と除去率が著しく落ち、TDS 20〜30ppmの水が出てくることがある。設置後は必ずTDSメーターで確認する習慣をつけること。また、RO膜は長期間使用していると除去率が落ちてくるので、年に1〜2回のTDS測定は必須だ。
失敗2:カーボンフィルターを交換せずRO膜を痛める
セジメントやカーボンブロックは「消耗品」であり、交換をサボるとRO膜に塩素が直撃して膜が劣化する。RO膜の価格は3,000〜8,000円程度だが、カーボンブロックは500〜1,500円程度。安い前段フィルターを定期交換することで、高価なRO膜の寿命を大幅に延ばせる。フィルター交換のリマインダーをスマホに設定しておくのがおすすめだ。
失敗3:廃水ラインを詰まらせて水漏れ
ROフィルターの廃水ラインを折れ曲がった状態で設置すると、背圧がかかってRO膜に負荷がかかり水漏れの原因になる。廃水ラインは必ず下向き・直線で流せるように配管すること。また、接続部のフィッティングが緩んでいないか設置直後に必ず確認する。水回り近くに設置するとはいえ、水漏れは床や棚への被害になるため、バケツや防水パンを下に敷くのが無難だ。
失敗4:DIカートリッジの色変化を見落とす
多くのDIカートリッジは樹脂が青色→茶色に変色することで消耗具合を視覚的に確認できる。しかし透明なケースでないと見えないため、半透明のハウジングに交換するか、TDSメーターで定期的に確認する必要がある。色が変わっていなくてもTDSが上昇し始めたら、交換の合図だと思ってよい。
よくある質問(Q&A)
Q1. RO水は飲んでも大丈夫?
純粋なRO水は飲めるが、ミネラルが除去されているため長期的に飲料水として使うと電解質バランスが偏る可能性がある。市販の純水・RO水はミネラルを後添加しているものが多い。アクアリウム用途で作ったRO水を少量飲むことは問題ないが、日常的な飲料水としての使用は推奨しない。
Q2. RO水を作るのにどのくらい時間がかかる?
一般的な家庭用ROフィルター(75GPD≒280L/日のスペック)の場合、1時間あたり約10〜12L程度が目安。60cm水槽(約60L)の10%換水(6L)なら30〜40分で作れる計算だ。まとめて作ってポリタンクに保存しておくと便利。
Q3. RO水は保存できる?
清潔な密閉容器であれば2〜3日は問題なく保存できる。ただし長期保存(1週間以上)は細菌繁殖のリスクがあるため、使い切るかを考えて作るのがベスト。保存する場合はフタ付きの20Lポリタンクが扱いやすい。
Q4. ROフィルターを設置する場所はどこがいい?
水道の蛇口や給水管に接続する必要があるため、洗面台下・台所下・洗濯機置き場近くが一般的。賃貸の場合は元栓の工事が難しいため、蛇口直結タイプのアダプターを使う方法が現実的だ。設置に不安がある場合は水道業者に相談するか、蛇口に分岐栓を取り付けて接続する方法を検討しよう。
Q5. RO水を使えば水替えの頻度を減らせる?
不純物の投入がなくなるため、水道水を使うよりは水質が安定しやすい。ただし水槽内で発生する硝酸塩・リン酸塩の蓄積は変わらないので、水替え頻度を大幅に減らすことは難しい。あくまでRO水は「きれいな水を入れる」ための手段であり、水替え自体の必要性をゼロにするものではない。
まとめ:RO水はコストではなく投資
「ROフィルターを買う予算がもったいない」と感じる人もいるが、1万〜2万円のROフィルターを買わずに、コケ問題や白化で何千円もの生き物を失うほうがはるかに損失は大きい。
RO水の導入は、海水魚・サンゴ水槽を長期的に維持するための最もコストパフォーマンスの高い投資のひとつだ。特にサンゴを育てたいなら、最初からRO/DIを使うことを強く勧める。
海水水槽の始め方や水槽のサイクリングとはと組み合わせて、最初から正しい水を使った水槽環境を作っていこう。
水槽のセットアップに不安がある場合は、プロのアクアリストへの相談もひとつの選択肢だ。
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